2009年12月29日
書き直す記憶

“希望はない。ないことを自覚しろ。”
坂本龍一は未来をそう断言する。
この春、5年ぶりのオリジナルALBUM「Out of noise」を発表。
『ryuichi sakamoto playing the piano 2009_out of noise』と題した全国24カ所日本ツアーを皮切りに、
すべての公演を最短で24時間後にiTunesで発売するという音楽史上始まって以来の試みを敢行した坂本龍一という音楽家に私はかつてない衝撃を受けた。
犬の老衰は人間の七倍というドッグイヤーの時代にあって、音楽業界の急激な衰退は今後の音楽文化に暗い影を差していた。
ところがその風潮に真っ向から立ち向かう“教授”(ニックネーム)の行動は、
私の知る限り日本で唯一の革命家的音楽家ではないかと確信したのだ。
幸運にもデビュー当時から教授の動向を見守ってきたファンのひとりとして、
またこの半世紀あまりを共に生きて来た時代の目撃者として、というと大げさだが、
今回の過激とも受け取れる教授の行動の真意を確かめたくて、あえて東京公演を見送り、
もうとっくに血の関係を失っている生まれ故郷で行われた岡山公演に向かった。
なぜなら今回の教授の行動は音楽家が自分の音楽から限りなく自由になっていること、
もっと言えば、自分の人生からも限りなく自由になっていなければこんなことは出来ないと感じていたからだ。
ならばこれを機会に私も音楽への思いをもう一度振り返ってみたくなったのだ。
以前にもこのコラムで「童貞時代に聞いた音楽を超えられない」と懺悔したが、
岡山は私の音楽への執着が芽生えた記憶の地でもあった。
これが故郷の見納めというか、事件現場に戻る犯人の心理は分からないが、早い話が歳のせいで故郷を懐かしく思っただけなのかもしれないが…。
で、故郷の変貌ぶりに私の記憶は完全に言葉を失った。干支のサイクルで例えれば一回り以上も忘れていたことですまされるものではない。
シャッター商店街の無惨な姿はそれまでもテレビ等では見ていたはずだが、いざ自分の美しかった?過去を思い出をこうも簡単に抹殺されては年号が平成になった程度の平静では入られない堪らない。
ま、人間とはどんだけ身勝手な生き物だ。
そういえば、地球の環境問題について教授がコメントが印象的だった。
なんだかんだいっても自分の子供の未来や自分自身がいい空気を吸いたいだけという環境問題は自分のエゴだからね…
確かに私も合点だ。
しかも
“人類はダメだなという、諦観みたいなものはあるな。それは音楽で簡単に表現できるようなことではないんだけれど”
と。はっきりおっしゃる。
また今回の新作のタイトルに関して“NOISEという言葉自体もいろいろな比喩になるかもしれない”
と語る坂本の言葉にはものごとをとことん突き詰めて考える人特有の平穏さがある。それは真っ直ぐな地平線を見ているような…
余談だが、
私の最近のお気に入りのエストニア生まれの音楽家、
「Arvo Pärt」の伝記にこんなくだりを発見した。
「意思表示する方法は数多あるけれど、その中で作曲という行為が最も無能で役に立たないという究極的絶望に彼は辿り着いたんだ。音楽に対する信頼も、音符一つ書く力さえも失ったようだったよ。」
音楽家の絶望の深さをみるにつけ、
私のような凡人には恐怖さえ覚えるが、
しかしその無音の時代を乗り越えてこそ見えてくる地平線というものがきっとあるのではないだろうか。
911以降、幾度なくその絶望を乗り越えた教授だからこそ、ここまで自由になれたのかもしれない。
しかしそれもすべて「生きる事は反逆」というまるで革命家(音楽家)のような生き方をする教授に与えられたそれは使命だったのかもしれない。
そうそう童貞時代を過ごした岡山にも変わらない場所があった。
日本三名園のひとつ、後楽園だ。

子供時代に祖母のお茶会になんども連れていかれ足が痺れて立てなくなった思いでの美しい公園だ。
すべてが変わってしまった岡山で、あの頃となにひとつ変わらない場所と出会えたことがうれしかった。
そして教授の岡山公演だ。童貞時代からから今日へつづく音楽遍歴を思い巡らせながら聞いた坂本龍一の岡山公演だ。
“毎回その日の気分で選曲してます”の岡山公演の三拍子特集が絶妙だった。
しかも最後に披露してくれた曲は、
なんと私が過去に制作したあのスネークマンショーのアルバムで演奏して頂いた、
エリック・サティーの「ジムノペディ」であった。
そしてその24時間後に再びその感動を反芻するように
繰り返し聞き直し体験することで、
あの夜、生で聞いた坂本龍一の音楽の感動が、
一度描いた絵にもう一度上書きするように
写経反復擦り込むように
それは今までの音楽体験とは明らかに違う
○○な記憶となって
これは私の一生の思い出だ。ときっとつぶやく。
The memory that this was rewritten

投稿者 moichi : 2009年12月29日 10:24
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