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dictionary139号
信國太志(TAISHI NOBUKUNI, Botanika デザイナー)インタビュー (11/02/23)


信國太志 × 佐々木康雄(TAILOR Marquis)


「一流の人達に仕立ててきた一流の腕は、信頼を越えて畏怖すらも感じます」
信國太志(Botanika / Taishi Nobukuni デザイナー)


Photo by Shin Okishima
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インタビュー#3
信國太志(TAISHI NOBUKUNI, Botanika デザイナー)
聞き手:桑原茂一


肉体的にも精神的にも過酷な状況が最も人を覚醒に導く



信國 グルジェフ1 っていう思想家がいて、彼はいわゆる行法
と言われるヨガだったり瞑想だったりを全て否定していて、第
四の道というのを彼は提唱していて。その第四の道というのは
詰まるところ日常なんですけど…彼は覚醒に至る最高の条件と
して言っていることは、すごく肉体的にもきつく、到底無理な
ノルマを課されていたり、全くそりの合わない上司がいる上で、
家族を抱え、その上明日がどうなるかわからないような、そう
いう状況が最も人を覚醒に導く、ということを彼は言っている
んです。
―いい話だね、それ。俺の人生そのものだよ(笑)。ところで、
あんなに嵌っていたヨガを止めたいきさつは?
信國 サーフィンは続けています。けど、それはですね、自律
神経と関係があって、能動的なことだけじゃないんですよね、
サーフィンとかって。波に乗っているようでいて実は乗せられ
ているから、自分のエゴだけで頑張ってやっている訳ではない
部分があり、かつ波に揉まれたりというところでバランスが取
れるんですけど、ヨガっていうのはどこまで行っても自分がやっ
ているものなので、ある種の自律神経失調症になってしまうん
ですよね。僕もそうなったんですけど。毎朝早くにずっとヨガ
をやっていたら、朝になると目がバキーンとなって目が覚めちゃ
うとか、心臓がドキドキしちゃうんです。昔、白隠2 というお
坊さんがいて彼は瞑想のし過ぎで同じようになって、それを禅
病と呼ぶらしいんですけど、彼はそれで死に損なって京都の山
奥に300 歳の仙人がいるという噂を聞いて訪ねて行ったら「わ
しは何も知らん」みたいに言われてずっと何も教えてくれなかっ
たんですけど、「お願いですから助けてください」って言ったら
「ちょっと脈を取ってみよう」という話になって脈を取ったら、
「あなた、もうすぐ死ぬね」ということを言われて、瞑想法を
教えてもらったら彼は治ったらしいんですけど…端的に言うと
「気」みたいなものが上に上がりすぎていたっていうことですよ
ね。上に上がるって言うことは科学的に言うと交感神経があま
りにもアクティブになりすぎているっていうことなんで。


ファッションを志して行き着いた先に見出したもの、
それは失われつつあるテーラード職人の世界だった。



信國 最近僕この歳になって仕立て屋の丁稚みたいなこともし
ていて、青山で長島茂雄さんとかのスーツを作ってきた先生み
たいな方3 がいるんです。その方の工房で、そこの職人にもう
一回一からスーツ作りをずっと学んでいて、今日来ているこの
スーツも自分で作ったんですけど、そこで本当に色々なものを
考えさせられたというか。やっぱり職人の手の技術の大切さと
いうものと、実は今それが本当に滅びつつあるというのを目に
して。そこで服を作っている職人の人たちっていうのは平均年
齢が72 歳くらいなんですよね。彼らに聞くと、50 代の人に会っ
たことは無いし、一番若い人でも68 歳くらいで、要は昔の注文
服というものがまだ存在した時代の人たちなんです。それ以降
DC ブーム前後から全てが既製服になって、あとは工場の中で分
業でポケットだけを作る人しかいなくなってしまったので、本
当にひとりでまるまるスーツを縫えるっていう人がこの日本も
しくは地球上から消えつつあるっていう。僕は、もともとルー
ツとしてはこういうスーツが好きで、TAISHI NOBUKUNI という
ブランドをやっていて、そこから途中でBotanika というブラン
ドを始めたんです。その時は先程僕が話したようなヨガ的な生
活にはまっていることもあり、そういう意識の変化で環境問題
だとか色々なことに興味を持って、お肉を食べなくなったりと
か、すごく大げさに言うと「世の中をなんとかしなきゃ」みた
いな意識があったと思うんですよ。今も僕はオーガニック・コッ
トンのビジネスを続けていますけど、…というのは世の中を変
えるより、やっぱり一番身近な人をすごく満足させたいなって
いう気持ちと、あと環境の動向以上に「いいもの」が持つクオ
リティーとかそういうことに今興味が移っているところなんで
す。今、環境問題がいい意味でも悪い意味でも一般的になって、
もうちょっとみんな身近なところに意識が加わるのがいいのか
なと思っています。昔からの日本的な生活の環境がよかったと
か、そういう風に変わる時なのかなって気が僕はすごくしてい
ます。だから、大げさな地球をなんとかしなくちゃっていうこ
とより、そういう失われつつあるものをなんとかしたいなって
いう気持ちがすごくありますけどね。
―スーツ作りをして集中している時間ということは、今までと違っ
て、地位や名声を目的として仕事している訳ではないということ?
信國 そうではないですね。それが中心にあって、それが成立
するように周りのビジネスとかが成立していけばいいけど、ま
ずそこを大事にしたいし、最近またそれをやり始めて、その工
房だとか職人たちが縫っているところに入るだけでちょっと胸
がドキドキするようなところがあって、「ああ、僕はただこれが
欲しかったんだ」って。そもそも洋服を作ろうと思ったのも最
初にこういうところに行った時になんかドキドキしたりとか、
ここで手を使って何かやったりするのが楽しかったのに、いつ
の間にかファッション界でなんとかコレクションでとか、そん
なことになってしまって、「僕は何をしていたんだろう?」みた
いなというところがありますね。




本当の意味でスピリチュアルなものがそこにあった。



信國 僕はヨガ的な道筋がずっとあったんですけど、そっちの
方で行き着いたことは、言ってみれば禅寺で箒はいているお坊
さんみたいなことであって、実はこうやって座って目を瞑って
いるよりも、それこそが本当の精神修行だというのがあります
けど、要は何かの動作とか何かに没頭している状態の方が実は
意識状態は高いというのがあって。それと僕はそういう手仕事
みたいなものがリンクしたところがあって、実はすごく物質的
なことをやっているようでありながら、僕にとってはすごく本
当の意味でのスピリチュアルなものがそこにあるというか。そ
ういうことに没頭して、ごく当たり前の分相応の人として死ぬ
というのは気障なのかもしれないですけど、美しいんじゃない
かなという思いがあります。カミさんも僕をよく見ていて、僕
がこれまで何百点服作って、展示会やってそれっきりで終わっ
てしまうみたいなものを見てきているので、だったら一つごと
にこつこつやるのが実は僕に向いているんじゃないかという目
では見ていてくれていますけど。



人間の本当の幸福とは?



信國 僕が今その仕立て屋修行みたいなことをやっていて、70
歳の職人さんの人生というものに初めて触れる訳ですけど、例
えば彼らっていうのは大体16 歳くらいから丁稚奉公というもの
をするんですね。住み込みでご飯はもらえるけど、お金は一円
も貰えない中でとにかく丁稚として無給で仕事を覚えていくん
です。例えば、昔の人は「パンツ2 年、ジャケット4 年」と言っ
て6 年くらいかけてマスターする訳です。で、その後今度は奉
公返しというのがあって、教えてもらった技術で雇ってくれた
人にお返しするためにまた更に3 年くらいは無給で働き、そこ
で晴れて一人前になって。ある人は四国でそういう生活をして
いたんですけど、東京に行くともっと技術レベルが高いらしい
ということを聞いて、電車に乗って東京に来て、スポーツ新聞
とかの求人欄で仕事を探してどこかで働きだして、みたいな人
がいて…何が言いたいかって言うと、今って言うのは法律があ
るから無給でなにかを学ぶことが全くできないし、あと企業が
技術をむしろ外に流出させないようにするために全てのものを
分業化してしまっているので、「私は○○屋さんです」みたい
な誇りを持てる職がほぼ無いという気がします。その中で人は
「じゃあ、自分って一体何なんだろう」ってところで、鬱病にな
り不安であり、高いローンで家を買ったりする。僕はやっぱり
人間の本当の幸福感というのは「私は○○屋なんだ」ってすご
くシンプルなアイデンティティーがあれば、僕はそれが一番幸
せかなと思います。



日常的な仕事を突き詰めることが
僕にとっての「生きる」ということ



信國 インドの聖者でラマナ・マハルシ4 という人がいて、彼
は「生きるとは何か」っていうことをすごくシンプルに言って
いるんです。「私の」ということの「の」っていうのを無くすと
いうのが生きる目的だと言っていて。それはどういうことかと
言うと、純粋たる意識を持って生まれた人が、頭の発達と共に
色々な概念と同時に「私の○○」っていう世界観みたいなもの
を作る訳ですけど、生きながらにしてそれを超えるというか、
そこの純粋な意識に立ち戻れた時に人はもう生まれてくる必要
が無くなるのかもしれないし、僕はその「私の」の「の」を無
くすという純粋な意識に戻るというのが、何か特別なことでは
なくて、すごくそういう日常的な仕事、作業とかそういうとこ
ろにあると思ったので、それを突き詰めることが僕にとっての
「生きる」っていうことだし、僕にとっての幸せということなの
で、当然僕も行き着いている訳じゃないし、だから生きている
訳ですけど。今までは、むしろ「私の」の固まりですよね。全
てがやっぱりまず思春期あたりから色々な世界観がある中で、
なんとなく私が「どうしよう?」ってことで頑張っていく訳です。
「この職業だ」というものが無い世界では僕が思ったのはデザイ
ナーという職業もすごくあやふやな概念でしかなかったので、
そこから揺り戻し的に職人的な道にいるだけのことであって…
そもそも僕がヨガ的な生活をするきっかけになったジェリー・
ロペス5 さんという伝説のサーファーと言われている人がいま
すけど、僕はその人に会った時に、ものの何秒ですよね、彼の
目を見た時に言葉を無くしてしまって。彼の瞳の向こうには彼
はいない訳ですよ。あたかもそういう風にしてこちらに微笑み
かけている人を見た時に、この「私の」という観念の中で生き
てきた自分の概念みたいなものがボロボロと崩れてしまったと
いうか、もしくはこういう風になりたいとすごく思いましたね。
それをラマナ・マハルシっていう人は単純に例えていて、人は
マッチみたいなもので、湿っているマッチもあれば乾燥してい
るマッチもある、と。乾燥していて準備ができているマッチは、
何かのきっかけがあるだけですぐに火がついてしまう。僕はジェ
リーさんに会った時に本当自分の何かに火がついてしまったと
いう。わかりやすく言うと、彼に会った時に例えば自分の人生
が二股に分かれた時に、それこそ偉いデザイナーみたいなもの
とジェリーさんみたいな人ってなった時に「絶対こっち(ジェ
リーさん側)になりたいな」って。逆に今までなんとなく思っ
ていたことって何だったんだろうっていう。話が逸れるかもし
れないですけど、やっぱり適職を見つけるというものがあまり
に日本の教育システムの中にないですよね。僕は子供の時から
すごくそれに苦しんできたし、何になりたいのかわからないの
に、まず行きたい学校を決めないといけないという。それに向
かって我武者羅に勉強しないといけないという現実がある。あ
と、普通の人になるのが恐かったですね。むしろ世捨て人的な
そういう心情もやっぱり10 代特有の感情もありましたけど。




仕立て屋のベーシックな体験を通してわかったこと



信國 例えばわかりやすく洋服に限って言うと、システムになっ
てしまったというのがあって。メーカーがあって、デザイナー
があって、パタンナーがあってというシステムになり、そのシ
ステムの中の何かをやるべく学校に行ったりする訳ですけど、
それは元々根源みたいなものがあって、「一人の人が一人の人に
洋服を作ります。さあ、どうしますか?」というところからこ
ういう風にフィッティングしてこういう風に型紙作ってなんと
かっていう、それがだんだん大衆向けになっていく中でシステ
ム化されて、そのパーツみたいなものが生まれてしまった訳で
すけど、今はその根源を知らずして、まずそのパーツの部分か
ら教え、かたやクリエイティヴな部分ではむしろ幻想的な芸術
的なことを教えたりしますけど、だから僕はむしろある仕立て
屋とか何かのすごくベーシックなことを地道に体験すると、そ
の後システム化していく根源の全てがわかるし、僕はこの歳に
なってわかったことがたくさんあるので、だからそれを薦めま
すね。この間も僕、学生に「どうしたらいんでしょう?」みた
いなことを言われたんですけど、「信じないかもしれないけれ
ど、どこかのファッション・ブランドに就職するんじゃなくて、
町の仕立て屋さんとか女性の服を個人で作るところでもいいし、
そういうところで働いてみた方がよっぽど勉強になる」という
ことを言ったんですね。そういうところの人たちは仕事が細か
いんですよね。「縫い代3mm 違うじゃないか!」みたいなこと
を言われたりするんで、本当僕らは実はすごくいい加減になっ
ているというか、みたいなことを感じますね。
 マルセル・デュシャン6 の言葉で「死ぬのは他人ばかり」と
いうのがあるらしいんですけど、これはすごく深い意味があっ
て。僕は色々な精神的な経験での結論としては、生き死にとい
うもの自体もこう概念でしかないというのがあって。本当に私
が今生きています、死にましたっていうのは死というものがあっ
た時、私の死というものを承認しているのは誰なんだっていう
概念でいくと、それは科学の限界とも共通することなんですけ
れど、観察者がないところに現象はないということを突き詰め
ると生きるとか死ぬとかは無くて、でも生きることの意味って
いうのを極点的に言えば、そこを知ることっていうか、生き死
にを超えることというか、うまく言えないんですけど…そうい
うことかなって気はするんですけど。さっきのラマナ・マハル
シという人に誰かが「すみません、私は死んだらどうなるんで
すか」って聞いたら「あなたは本当に産まれたんですか」とい
うことを言われたりしていて。



周りのことはあとからなんとかなる



信國 僕が改めて洋服作ったりするのを面白いなって思うこと
を更に突き詰めると、単純に言うと平面の布地がこう立体になっ
ていくのが、美しく面白いなって思っていて、それは子供が粘
度遊びをしたりっていうのと同じ感覚だと思うんですけど、仕
事という概念以前に単純にその行為とドキドキ感があって、僕
はそれが最終的に経済的にも色々な意味でも生きていけるとい
う意味での、こう自分の環境がそこから付随して生まれればい
いなと思っていて、でも今まではなんとなくまず環境みたいな
ものが頭の中にあって、ファッション界があってデザインとい
うのがあって、その中に僕というのがいて全てが逆転した発想
だったなという意識があって、でも若い人からするとまずお金
があって、なんとかでという同じ発想をすると思うんです。た
だ一言言えるのはやっぱりそのドキドキ感としか言いようがな
くて、本当そのドキドキ感みたいなものがそこにいれば、絶対
周りのことはあとからなんとかなるような気がするんですよね。






1. グルジエフ/ゲオルギイ・イヴァノヴィチ・グルジエフ。アルメニア人の神秘家。
霊的自由を獲得するための行法システム「ワーク」の創始者で、20 世紀神秘主義運動
に重きをなす人物。世間にありながら、世間に属しない「第四の道」を説いた。
2. 白隠/白隠慧鶴(はくいんえかく)。臨済宗中興の祖と称される江戸中期の禅僧。禅
を行うと起こる禅病を治す治療法を考案し、多くの若い修行僧を救った。
3. 伝説のテーラー、Marquis( 東京都港区南青山5-3-10 From-1st 203) の佐々木康雄
氏。信國氏のデザインとマスターテーラー佐々木氏によるコラボレーションのフルオー
ダーを行っている。
4. ラマナ・マハルシ/インドの聖者。「私とは誰か?」という実践的な真我の探求を推
奨した。
5. ジェリー・ロペス/ハワイ出身のカリスマ的サーファー。知性と直感にあふれ、世
界中に多くのファンを持つ。
6. マルセル・デュシャン/フランス出身の美術作家。ニューヨーク・ダダの中心的人物。
代表作に男子用小便器を題材にした作品「泉」がある。






Profile
prf nobukuni.jpg

信國太志(Botanika/Taishi Nobukuni デザイナー)

1970.5.30 生  熊本県出身

1996  セントマーティン美術学校、修士過程(ウィメンズウェアー)修了

1998  TAISHI NOBUKUNI を設立

2005  毎日ファッション大賞 新人賞受賞

2007  Botanika をスタート



Recruit

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